高橋祐介は27歳。カメラマンを目指している。
現在大阪の町に住む彼の故郷は、奈良県大和高田市。
昭和の香りを残す、懐かしい風情のある町だ。その町にある製氷店が、彼の生家である。
現在店を営んでいるのは父である圭司。先代の周太郎は、身を引いた形となっている。
祐介は、祖父・周太郎より写真の素晴らしさを教わった。周太郎は、写真を撮ることを唯一の趣味と
していたのだ。もっとも一度も個展をしたことのない、本当に個人的な楽しみであったのだが。
ここ数年、周太郎は、大和川に心引かれ、シャッターを切り続けていた。
ある日祐介のもとに、周太郎が心筋梗塞で倒れて、亡くなったとの知らせが届く。
大和高田に帰る祐介。知らせを聞いた時一緒に居た彼女の清水友里も、共について来ることになる。
祐介が実家に帰ったのは、4年振り。4年間まったく足を向けなかったのには、理由があった。
父・圭司との不仲である。
圭司は、周太郎より製氷店を受け継いだ。しかしそこには同じ仕事をする親子の争いがあった。
周太郎は、店を追い出される形となっていたのだ。一緒に家に暮らしながら、仕事場に立ち入る事の
できない周太郎。写真を通じて周太郎と仲の良かった祐介は、圭司の心の狭さを毛嫌いしていた。
周太郎のお通夜、葬儀と進む中、祐介と圭司の溝は、やはり埋まらなかった。
逆に同行した友里は、持ち前の明るい性格で、どんどん家のものと仲を深めてゆく。
中陰のある日、祐介と圭司の間に決定的な争いが起こる。
「店を追い出されたおじいちゃんの気持ちがわかるんか!」祐介は圭司に言い放つのだった。
母のはるみが、一人になった祐介をそっと諭す。「おじいさんの事、あんまりお父さんを責めてあげたら
可愛そうよ、お父さんかて心底おじいさんを嫌てたんやないと思うし…分かり合いたかったんと違うかな」
祐介は、周太郎の撮り続けた大和川の写真を、一堂に集め、個展をひらく事を計画する。それには最後の
一枚が必要であった。周太郎が撮り残した最後の一枚。大和川が最後に辿りつく場所、大阪南港の写真で
ある。祐介は、南港にむかい、祖父・周太郎への思いを込めて、シャッターを切るのだった。
写真展当日。大和高田の会場には、たくさんの人が詰め掛けた。客の対応に追われる祐介、はるみ、友里。
やがて日は落ちる。
あかりの落ちる商店街。会場の片付けをする3人の日に、押し黙って歩いて来る圭司の姿がうつる。
会場に、一人入る圭司。自分の父が写した大和川の写真と対峙する。
じっと、表情を変えずに、一枚一枚と、流し見る事もなく見つめて行く。
最後に向き合う事になる、息子の撮った南港の写真。圭司は写真の前に佇み続けた。
会場より出て来る圭司。そこには一人待つ祐介の姿があった。しばらくの沈黙のあと、圭司は口を開いた。
「俺はおやじから店を継いだ…2人の仲は良うなかったけど、2人は店を潰さんかった…お前はそれを潰す
んや…がんばって写真撮れ」と言い終わり、圭司は立ち去る。
製氷店の横の空き地。
祐介が立つ。見つめているのは、窓の中の作業場。そこでは父が働いている。
おじいさんは、どんな気持ちで、父の働く姿を見ていたのか──。
あらためて考えなおし、見つめなおす祐介。その答えは、彼の撮る写真の中に現れるかもしれない。
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